「賢者の医局」を目指して

藤田次郎教授 琉球大学医学部感染病態制御学講座(第一内科)
藤田次郎教授   平成20年5月22日

 「賢者の書」(喜多川 泰著)という本を読んだ。医局の体制にも活かしたいと思う内容である。中でも沖縄県の県民性を表現しているのではないかと思うのが、第七章であるので、その教えを以下に紹介する。

第七の賢者の教え〔幸福〕
人間は何を探して生きているかという点において二つに大分される。
ひとつは、自分を幸せにすることを探す人々。
もうひとつは、他人を幸せにすることを探す人々。
どちらを考えるかによって、自分の所属するオアシスが決まる。
自分を幸せにしてくれるものを探して生きる東のオアシスの住人にとっては、この世は思うようにいかない、楽しいことの少ない場所になるだろう。
ところで、他人を幸せにできることを探す西のオアシスの住人にとっては、この世は喜びに満ちた、楽しいことの多い場所なのだ。
もちろん、今の世の中の大部分は、東のオアシスの住人であろう。
そんな中で西のオアシスに住むのは、頭ではいいことだとわかっていても、なかなか行動できるものではない。
しかし、世の中の成功者はすべて西のオアシスの住人であることを忘れてはいけない。

 この章を読んで、私は沖縄県と内地との関係を示しているのではないかと思った。もちろん沖縄県にも様々な問題は多い。ただしこの章で示す第七の賢者が多いことは間違いない。

 まず車を運転していてすぐに感じるのは、皆が譲り合うことである。店で買い物をして、駐車場から出ようとすると、譲って道に入れてくれることが多い。また沖縄県ではクラクションの音を聞くことはほとんどない。譲ってもらったりした際にも、軽いクラクションではなく、ハザードランプの点灯でお礼の意を表すことが多い。

 第一内科の医局にも、同様の賢者は多い。第一内科には、消化器、感染症、および呼吸器グループが存在するが、一例として、消化器の医師が呼吸器の医師の論文を手伝ったり、あるいは統計処理をするなど、グループ間の協力が当たり前のように行われている。裏を返せばある意味、競争がないということかもしれない。
 このことはデメリットかもしれないが、やはり大きなメリットであると考えている。

 第一内科には、40名弱の医局員がいる。臨床をしていたとしても、研究をしていたとしても、年に1つの論文(日本語の症例報告で可)を書くことは困難ではないであろう。私は忙しくて論文が書けないということはありえないと信じているし、論文が書けないのは書く気がないからだと確信している。これは自身の体験に基づくものなので変えようのない考えである。さて第一内科において、仮に1人の医局員が年に1つの論文を書けば、それだけで40編近くの論文が完成することになる。もし1人の医局員が年に2つの論文を書けば、それだけで80編の論文が発表できることになり、日本でもトップレベルの教室になるであろう。この時に、3つのグループが協力しあうという第一内科の和の雰囲気が、必ず役に立つと信じている。

 大切なことはなぜ論文を書くかである。私はもう教授選に出ることはないだろうから、別に論文が欲しいわけではない。私の一番最初に書いた論文は、虎の門病院時代の症例報告であるが、その論文はいまだに教授室に置いてある。たった3ページの、今なら、数時間で書けるであろう論文であるが、その論文が印刷された時の嬉しさ(自分の書いたものが活字になること)はいまだに忘れない。また国立がんセンターで論文を書くペースを学んだし、そのリズムも掴んだ。そして米国では、論文はある意味artであることを学んだ。香川大学時代にはとにかく手当たり次第に書いたが、英文誌に自身の力だけで、論文が採択されるたびに感激したものである。この感激を味わいたいということかもしれない。

 もちろん業績を意識しなかったわけではない。教授になるためには論文業績は必須であろう。ただ現在も書き続けるのは、習慣としかいいようがない。

 最近、あらたな喜びを発見した。それは自分の名前の掲載された本の出版である。特に最近出版され、別の稿で紹介した、「肺炎の画像診断と最新の診療」(医薬ジャーナル社)は私の自信作である。もちろん多くの素晴らしい執筆者に恵まれたこともあるが、表紙や詩も含め、私の琉球大学医学部附属病院に対する思い入れが凝集された本である。この本はできばえが素晴らしいこともあり、出版社から、第60回フランクルト・ブックフェア(トルコにて2008年10月15〜19日開催)に出展することになったとの、ご連絡をいただいている。

 医局員の皆様には、私がこれまで経験してきた、自分が書いたものが活字になる喜び、レフリーからの返事の厳しさを味わったこと、レフリーから褒めてもらったこと、苦しみながらも学位を取得したこと、自分の書いた論文がeditorialとして紹介されたこと、Lancet誌にletterが掲載されたこと(2編)、論文の図が雑誌の表紙を飾ったこと、論文の積み重ねにより学会賞をもらったこと、自分の書いた論文が英文総説に引用されているのを発見したこと、そして自分の編集、あるいは執筆した本が出版されたこと、などの喜びを是非味わってもらいたいと思っている。

 私はそのための助けになることであれば、全力を尽くしたいと思っている。「賢者の医局」は、教室の業績を増やすためにあるのではなく、患者さんのため、および医局員の成長のために存在する。

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