感染症を学ぶ

大学で感染症を学ぶということ ーその面白さについてー

健山 正男
平成17年9月4日

 昨今、後期研修を大学外でおこなうことが「流行り」になっている感がしますが、少なくとも感染症に関しては、私は琉球大学での研修を勧めたいと思います。その理由として、これまでの実体験にもとづいた私なりの考えを述べてみたいと思います。

 感染症は、病因(病原微生物)に対して抗菌活性のある薬(化学療法剤)を投与すると必ず効果が得られる分かり易い学問です。しかしながら、病原微生物を決定する事ひとつをとっても必ずしも容易ではありません。この分野に特徴的な「経験的治療」という用語があります。これは病原微生物が確定できずに、過去の臨床疫学データから起炎微生物を想定して治療を行うことですが、これには初診時において検査判明までの間、とりあえず行う治療と、検査結果では病因が絞れないため(検査陰性の場合など)やむを得ず「経験的治療」を選択する場合があります。後者の場合が少ない程、適切な治療が行えることは自明です。逆に後者の「経験的治療」が多い研修は感染症の「体験」であり「経験」へと深化することができません。病因の確定した感染症を多く経験することにより、将来同じ感染症を見た場合に再現性のある診断と治療経験を学ぶことができます。また良質の経験は除外診断する診療技能へと発展させることも期待できます。鑑定能力が商いの生命線である質屋では、良い店員を育てるのに最も効果のあがる修行は本物の作品を数多く見せることだそうです。逆に贋作(がんさく)をいくら眺めても本物の目は養えないことを教えていると言えるでしょう。

 その病因の決定(確定診断)に琉球大学は様々な分野の感染症の専門家が結集し、各教室の連携も強いので、感染症の研鑽には最適な環境と思います。

 感染症では病原微生物の診断法が重要なのはいうまでもありません。検査法はまさに日新月歩で開発されるので、そのような検査が院内でできることは、迅速性を要求される感染症においては大変重要です。そのような検査の中に抗原、抗体検査、PCR法などの遺伝子診断、また画像診断法としてMRI、CT、そして不明熱の精査および質的診断を可能にするRI検査などが含まれます。臨床部門のみならず細菌、寄生虫、ウイルス、病理などの基礎医学教室の果たす役割も大変大きいものがあります。国内では希有なデングウイルスの分離に成功し、塗沫染色では難しいマラリアの重複感染をPCRで証明したこと、AIDS患者の脳内の腫瘤病変を全国に先駆けてSPECTでトキソプラズマとの鑑別に成功したことなど枚挙にいとまがありません。

 治療としては、細菌、真菌などの感受性試験が院内で実施できることから、実際に投与している薬剤をオーダメイドして感受性検査を行えるのでより確実な薬剤が選択可能です。また大学で使用できる薬剤は臨床治験薬を含めて最新の薬剤が選択でき、効果、副作用を含めて大きなアドバンテージがあります。

 大学は国内の感染症をリードする役割を担っており、多くの分野で研究機関のネットワークが組まれております。例として国立大学感染対策協議会、熱帯病研究班、HIV研究班など当教室も積極的に参加して各種感染症の疫学、診断、治療情報交換、診断技術の相互提供、人員の相互交流など全国規模で行っています。また感染症は社会に及ぼす影響が大きく、行政機関と最も密接な連携を行っている分野でもあります。

 ここまで琉球大学の感染症教育の現状について述べてきましたが、分子生物学的検査、高度医療機器の礼賛だと思われたかもしれません。しかし私はこれまで述べたことと矛盾すると思われるかもしれませんが、感染症を学ぶ上で最も基本的で重要なのは教科書と文献とグラム染色(個人的には)であると思っております。過去の臨床疫学データから起炎微生物を想定して治療を行う「経験的治療」のヒット率が高い程、診療技能が高いとも思っています。しかし経験的治療の基になる臨床疫学データは、本邦では主に医療体制や抗菌薬の使用状況、耐性菌の分離頻度が異なる欧米に依存しているのが現状です。大学は本邦における経験的治療の確度を高める臨床疫学情報を自ら研究して発信するところであり、そのためにこれまで述べた人材群と設備を活用して、病因追求の研究をしているのです。たぶん皆様の中には大学での研修を終えて将来、市中病院に勤務すると、これまで述べた「人脈や設備は使えなくなるので意味がないのでは」との不安があると思います。しかし感染症の本質をひとたび勉強した「経験」は、問題の疾患を良質の目をもって観察することができ、また本邦の疫学情報をフルに活用してどの種の検査を如何に組み合わせれば、より核心に迫れるかを効率よく判断することができるようになると思います。

【Link】

サイト内検索

カレンダー

カレンダー
      1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31      

2018年12月

アクセスマップ

琉球大学医学部第一内科
〒903-0215 沖縄県西原町字上原207
TEL:098-895-1144
※患者様は御用の際は
琉大病院(098-895-3331)
へお問い合わせください。
FAX:098-895-1414