剖検の意義について

琉球大学医学部感染病態制御学講座(第一内科):藤田次郎

 近年、剖検率の低下が指摘されています。画像診断の進歩がその要因と考えられます。しかし私自身は剖検を実施することは、自分の下した診断を確認する意味で重要だと考えています。私がレジデントを行った虎の門病院においては、内科の剖検率はほぼ100%であり、剖検の許可が得られなかった場合は、レジデントの恥である、という意識が浸透していました。確かに剖検が得られるということは、残された家族が、これまでの医療行為に満足した結果であるといえます。もし医療に不満を持っていたら決して承諾は得られないと思います。
私も自身の臨床経験で剖検を大事にしてきましたし、実際に多数のCPCにも関与してきました。また剖検の承諾の得られた症例は、医学的に貴重な症例であれば、症例報告としてまとめるよう指導してきました。そのような経験の中で1つのエピソードを紹介したいと思います。

若手呼吸器内科医の書いた症例報告  図に示すのは、香川大学医学部第一内科時代に、若手呼吸器内科医の書いた症例報告ですが、この症例報告が出版され、別刷が届いた際、私は亡くなった患者さんの奥さんにその症例報告を郵送いたしました。実は郵送する時には、ご家族がどのような反応をされるか、大変不安でした。論文が出版されたのは、患者さんが死亡されてしばらく経過していましたので、思い出したくないのではないかとも考えました。その症例報告を郵送した後の、奥様からの私宛への手紙の内容から、一部を抜粋して紹介いたします。

 『先日は、大切な資料をお送り下さり、大変ありがとうございました。先生は迷われていたようですが私共、遺族としましては、先生の御好意に感謝の気持ちでいっぱいです。 もう三年も前に亡くなった一患者のことを忘れずにいて下さったことを大変うれしく思いました。

 先生方の論文を見せていただくにつれ、主人が「一分一秒でも長く生きていたい。」と頑張っていたことが、ついこの間のことのように思い出されました。先生方の温かいお人柄にふれ、「本当に治るのでは?」と、主人も希望を持ち続けることができました。例のないほど延命できたのも、先生方の誠意あふれる御尽力のおかげだと深く感謝しております。お世話になった先生方のお役に立つことができて、きっと主人も喜んでくれていると思います。

 あの時、三才半だった長男も、今年は、はや小学校に入学するほどまでになりました。 主人は、私たちに闘病中の日記を残してくれていましたが、それとあわせて、先生がお送りくださった資料を宝物として、いつまでも大切にしたいと思います。そして長男がもう少し大きくなったら、父親の“生きた記録”を是非見せてやりたいと思っています。本当にありがとうございました。何よりもうれしい贈り物に、心より感謝致します。主人の両親からもお礼を申しておりました。早くお礼を、と思いながら、こんなにも遅くなりましたことを、どうか、お許し下さい。』

 このような手紙をいただいて私は驚くとともに、やはり剖検し、かつその症例報告をしてよかったと思いました。もちろん全く別の反応をするご家族もおられるとは想像いたしますが、一内科医のまとめた症例報告の別刷は、患者さんのご家族にとって宝物にもなりうるのです。

 さて科学的見地からも剖検の意義は大きいものがあります。それは貴重なサンプルが100年以上にわたって保存される可能性があるからです。1918年にスペインかぜが大流行し、世界中で2000万人以上もの人が亡くなったとされています。なぜスペインかぜがこのようなpandemicを引き起こしたのかは、長い間の謎でした。しかしスペインかぜウイルスは遺伝子工学の進歩に伴って現代に甦っています。このスペインかぜウイルスの同定に寄与したのが、1918年のスペインかぜ流行時に剖検され保存された病理標本でした。このように剖検により得られた貴重な検体が、将来の医学の進歩に寄与する可能性もあるのです。自身の行った医療の集大成として、および将来の学問の進歩に寄与する可能性のある剖検の意義を再度、認識して欲しいと思います。

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